RELAY ESSAY

デザインの定量と定性 Make your natureへ RELAY ESSAY 016

松井龍哉

Date : 2015 / 07 / 09

 2011年3月11日。あの震災を当時オフィスのあったヒルサイドテラスH棟で経験しました。倒れそうになる会議室のヒューマノイドロボット達を皆で必死に抑えながら、揺れるたびに様々なことが崩壊する恐怖を感じました。地震は過ぎ去るもその後に起きた憂は今もまだ深刻です。技術に携わる一人としてあの日以来、モノを作るための想像の糧に対してさえ負荷低減の態度を否応なくとってしまいます。 そして何より、あの当時愕然としたのは自分の人生をかけてきた仕事がなんの力も発揮できないことでした。

 昨今ロボットが話題になっていますが、特殊な要素技術(特に認識技術や人工知能)や生産効率性ばかりに焦点が当てられています。ところが、人が感じる心地よさや豊かさを支えるはずの技術の清々しい役割についてはほとんど触れられていません。もはや私たちは、技術から発想した未来を危険と等質化することを、感覚与件としてでなく倫理的な極限として認識しています。あの日以来、人が生活をすることの心地よさから発想する技術開発の推移を愚直に問うことがデザインの最初の一歩になったのです。よいデザインは謙虚である。もっと言えばこれからは、静かに空気のように見えざるデザインをしたたかに構成していくことが大切ではないでしょうか。1942年、ストラヴィンスキーは「音楽の詩情」で「鳥のさえずりや小川のせせらぎは音楽の素である」と言っています。その上で「ひとつひとつの音符は全体的な構成を与えられて初めて音楽になりうる」と書いています。デザイナーの仕事もこれに近く、構成に形質を与える仕事です。構成なき失当な形質はコミュニケーションを阻害します。デザイナーの仕事とは、デザインする対象と人の心象への静かで自然な交信の企てです。この考え方を踏まえ、私は開発するロボットの背景にあるコンセプトをMake your natureとしています。

 目下、東京オリンピックや新しい技術に心捉われがちですが、日本が背負った未来を想像するのに、あの日の経験内容を想起できていないなら想像の陰影にリアリティはありません。

 巨大なビジネスに発展するであろうロボット産業も経済性だけを追求しては私たちの文化を育む技術としての関心が遠のきます。人がモノを愛する理由とモノが人々に愛される理由を理解した技術開発をしなければ、地球にとっての迷惑なモノがまた増えるだけなのです。

 私たちの開発中の新しい家庭用ロボットの生産は東北の工場で行う予定です。
震災時になにもできなかった苦悩の扉をようやく開くつもりです。

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